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 デュオはガラスのボウルに卵を割っていた。
「ちょっと多いかな?」
 3個の卵を割り、菜箸でかき混ぜる。熱しておいたフライパンに、バターを一掛け落とすと、途端に溶け始めた。
「わっ」
 小さなガラスボウルに塩胡椒してさらにくるくるとかき混ぜ、デュオは卵をフライパンにあけた。
「大丈夫か?」
 ヒイロの幾分不安そうな声を背中に受けながら、デュオは菜箸でフライパンの中の卵をかき混ぜる。
「大丈夫だって言ってるだろ?」
「俺が作った方が……」
「いーの! 俺が食べた、あのハンバーグオムライスをおまえに食べさせたいんだって言ってるだろ?」
 デュオはかき混ぜる軌跡の向こうから、テフロン加工のフライパンの地が見えたのに気づき、あわてて一度火から離した。
「と、とっ」
 本当に大丈夫なのか、と不安なヒイロが、デュオの肩越しにフライパンをのぞいてくる。デュオは懸命に卵を木の葉型にしようとしていたところだった。真っ白いお皿の上にはすでにチキンライスが盛られている。なんとかかんとか形になったプレーンオムレツらしきものが乗ったフライパンを、もう一度ちょっとだけ火の上に戻し、すぐデュオはチキンライスの上にそのプレーンオムレツをのせた。それから、ナイフで上部を横に切り開いた。すると、半熟のとろとろ卵がふわりとチキンライスを覆った。
「ほら、おいしそうだろー」
 オムライスの横にハンバーグをのせる。
「できたぞ、ヒイロ」
 何もプレーンオムレツの形にしなくても、そのままライスの上に横滑りさせて覆っても良かったのでは……とヒイロは思ったが、機嫌が良さそうなデュオを見て、黙って椅子に座った。
 まあ……過程がどんなにもたついていたとしても、とりあえず食べられそうなものに仕上がってくれて、ヒイロはほっとした。半熟卵も、生すぎず、火が通りすぎず、ちょうど良さそうだった。
「おまえの分は」
「今作ってるから、先食べてて」
「……待っている」
「ヒイロ……」
 ただ、待っていると言われただけなのに、デュオはうれしくなってしまった。
「うん、すぐ作るから」
「焦らなくていい」
「うん」
 程なくできた自分の分の料理を食卓に運ぶと、ヒイロは本当にデュオを待ってくれていた。
「さんきゅな」
「折角一緒にいるのに、別々に食事してもしょうがないだろう」
「……まあな」
 ふたりとも出張が多くて、なかなか一緒に暮らしている実感がわかない。こんな風にオフが重なった時くらい、一緒に食事したってばちは当たらないはずだ。
「いただきます」
 デュオはヒイロがスプーンでオムライスをすくうのを見ていた。真っ直ぐ口に運ぶ。
「……おいしい?」
「ああ」
「ほんとほんと?」
「ああ、おいしい」
「だろー? この間地球で食べた時、すっごいおいしかったからさ、おまえにも食べさせたいって思って、で……」
「……そうか」
 微笑してじっと見つめてくるヒイロに気づいて、デュオは頬が熱くなった。
「食べないのか」
「た、食べる」
 ぱくんと口に運んだオムライスは、自分で作ったにしてはよくできていた。やはり、あそこのシェフが作ってくれたような、ふんわり卵にはなりようがなかったが……それでも、そこそこおいしかった。
「今度、一緒に地球に行こうな」
「……おまえのもいいが……そうだな、おまえと一緒におまえの気に入りの店に行くのもいいかもしれないな」
「なっ、だろ?」
 はしゃぐデュオが可愛くて、ヒイロの視線が優しくなる。
「ああ」
 ヒイロはデュオが夢中で食べているのを眺めながら、自分も食事を再開した。

いかがでしたでしょうか?
ラブなイチニになってるといいのですが。……本当にささやかな日常のふたりでした。
えっと……デュオが作っていた料理は、この間東京で食べたものです(^^)。実際のには、ちょっとしたサラダも乗ってました。ちょっとボリュームあったけど、育ち盛りのヒイロやデュオには物足りないくらいかもしんない……。
よかったら感想お聞かせくださいね。それではまた〜。

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