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これは五飛×デュオで、十二国記のダブルパロディです。原作を未読の方には不親切ですが、説明は省略させて頂きますので、ご了承下さい。(原作を未読の方は、せめて、十二国記についてネットで検索されて概略を掴まれてから読まれることをお勧めします)


 デュオは才国の麒麟だった。何度か昇山してくる人たちを出迎えたが、未だに王を定めることができずにいた。
 そしてまた……その時期がやってくる。デュオは何故か憂鬱な気分で手すりに腕をのせ、その上にあごをのせながらため息をついていた。
「どうなさいました? ため息などおつきになって」
「あ……」
 仙女はみな、麒麟のために生き、麒麟の世話をするのが仕事だったから、麒麟が憂鬱だと気になるに決まっている。デュオは気遣わせてしまったことを後悔しながら身体を起こした。
「何でもないんだ。なんだか……もうすぐなんだな、と思うと……気分が沈んで」
「王を選ぶのに、何かためらいが……?」
 彼女が言葉を慎重に選んだのを感じ取り、デュオは微笑した。
「そういう訳じゃないんだ。でも、今までこんな感じ……なかった。王を選ばなければ、っていう気負いはあったかもしれないけど、なるようにしかならないとも思っていたし……決して憂鬱になったりしなかった。……もしかしたら……」
 今回の昇山者の中に、王がいるのかもしれない……と口に出しかけ、デュオは黙った。まだはっきりしたことではないのに、それらしき兆しを安易に口にすべきではない気がした。もちろん……仙女たちは麒麟の味方だろう。デュオが口止めすれば、黙っていてくれるかもしれないが。
「そうですか。それは良い兆しなのかもしれませんね」
 察したのか、そう呟き、彼女は微笑した。デュオはほっとして外を振り返った。夕陽が地平線に沈むところだった。
「誰にもまだ言わないでくれるかな」
「はい、かしこまりました」
 確かじゃないことで、みなを喜ばせたくはなかった。またがっかりさせてしまうかもしれないし。ことがはっきりしてからでも遅くはないはずだった。


 日一日と、デュオは気分が落ち着かなくなっていった。昇山者に会える日が待ち遠しくて、デュオはそわそわしだしていた。
 ようやくその日になって、デュオはこれでようやく落ち着けると思った。大勢の昇山者に会い、その気配を探した。だが、彼らの中にはいなかった。
「どうして……」
 気配はする。けれど、ここにはいない。デュオはもういてもたってもいられなくなって、建物を飛び出した。仙女たちがあわてて後を追いかけてくる。けれど、それに頓着している余裕はデュオにはなかった。
 外にはたくさんの天幕が張られ、そこここで昇山者の従者たちがそれぞれの仕事をしていた。中には昇山者も混じっていて、彼らと同じくデュオが近くを通ると恭しく頭を下げた。
 デュオはそんな中を懸命に歩いていた。そうしていれば、きっと見つかるはずだと信じて。
「五飛、こちらに運んで頂戴」
「分かった」
 喧噪の中、ふいに少年の声がデュオの耳に飛び込んできた。騒がしい中、なぜその声が聞こえたのか分からない。ただ、なぜか……耳元で囁かれているかのようにはっきりと聞こえ、デュオはその声の方を振り返っていた。
 短い黒髪を後ろでひとつに束ね、灰色の粗末な服を身につけた少年が、両手いっぱいの薪を携え、歩いていた。
「っ……」
 彼はそのまま近くの天幕の陰に消えた。デュオはふらふらとその後を追った。そこでは、夕餉の支度をする少女と、先程の薪を持っていた少年がいて、カラカラと薪を下ろし、うずくまる姿があった。
「采麒」
 先にデュオの姿に気づいたのは、少女の方だった。少年はデュオに背を向けていたので気づくのが遅れたが、背後に気配を感じたのか、少女が声を上げる前に振り向いていた。
「采麒……このようなところにおいでとは存じ上げず、失礼いたしました」
 ふたりともその場で叩頭礼を取った。デュオはそんな彼らの姿に落ち着かないものを感じた。
「どうぞ……頭を上げてください」
 その言葉に、ふたりは顔を上げた。少年の瞳は黒く艶やかに光を帯びて、デュオを見つめていた。
「ご尊顔を拝し、恐悦至極に存じ奉ります」
 使用人なのだろうと思わせる姿だったが、少年はすらすらと上位者に対する挨拶を述べ、礼を取った。けれど、デュオはそのまま立ちつくしていた。
「お名前を……お聞きしてもいいでしょうか」
 少年は瞬き、デュオを見た。
「……わたくしめの、でしょうか……?」
「はい」
「張五飛と申します」
「……張……五飛様」
「あ、どうぞ……呼び捨てに。私は李将軍閣下の従僕でございます故」
 デュオは首を振っていた。
「呼び捨てになどできません」
「なぜ……」
 デュオはその場にぬかずいた。額を地に触れさせ、目を閉じる。
「采麒……」
「御前を離れず、詔命に背かず、忠誠を誓うと誓約する」
 私が……?
 たとえどんなに意外でも、五飛は自分のなすべきことは分かっていた。麒麟が選んだということは、決して覆されないということ。受け入れるしかないということを。
「……許す」
 長い逡巡ののちに低く囁かれた声を聞き、顔を上げたデュオが見た五飛は、喜びと言うより、驚きがその顔を彩っていた。


「本当に、わたしが」
 並み居る将軍や名のある文官を差し置いて選ばれた無名の少年は、まだ自分が置かれている状況を飲み込めないでいた。デュオは小さく頷き、ふたりきりになった広い部屋の中、新たな采王を見つめていた。
「五飛様が……自らを王に相応しいとお思いで、昇山なさってこられたわけではないのは分かっています。でも……俺は……あなた以外にいないと思った。あなた以外を選ぶことなど」
 五飛はデュオを見た。その顔にはもう戸惑いや困惑は消えていたが、それでもその顔に喜びは浮かんでいなかった。
「王とは……大変な役目を仰せつかったものだ」
 そう呟いてため息をつく。
「わたしはずっと将軍閣下のお屋敷で働いてきたので、前王陛下が僥倖あそばした際に居合わせたことはございます。ご尊顔を伺うことなどできませんでしたが……それでも、大変な責務を負われていらしたのは存じております」
 将軍は前王の信頼厚く、重く用いられていたから、彼が王としての道を外れていくのを止めることができなかったことを悔やんでいた。
「わたしに王が務まるのか……わたしには自信がない」
「でも、俺はあなたでないとと思ったから」
「分かっています。でも、もう少し……時間がほしいのです」
 決して、現実から目を背けようとしているのではない。それどころか、懸命に受け止め、それを受け入れようとしている。自分に課せられた責務から決して逃げ出そうとしないその真摯さに、デュオは、やはりこの人でなければならなかったのだと思う。きっと時間は掛かっても、五飛なら大丈夫だろう。
 デュオは椅子から降りると、窓のそばに行った。
「俺はいくらだって待つよ。それしかないし」
「采麒」
 デュオはにっこり笑った。
「おまえはいい王になるよ。俺が保証する」
 五飛はデュオを見つめ、複雑な笑みをにじませる。
「他の誰に何と言われようと、あなたがそう言ってくれるなら、私は頑張ることができそうです」
「五飛……」
 デュオはそっと五飛の肩に頭をもたれさせた。デュオの髪の香りがほんのり漂ってきて、五飛は目を細めた。
「おまえでなければだめなんだ」
「……はい」
「才を……頼む」
「分かりました」
 太陽が地平に沈もうとする頃、ふたりきりでかわされた約束だった。

いかがでしたでしょうか?
色々考えましたが、こういう形になりました。めちゃめちゃ強引なのは承知の上で、デュオのことをデュオと表記してしまいました(苦笑)。十二国記は私も大好きなので、楽しかったけど大変でした……。どうか苦情は勘弁してやってくださいませ。
よかったら感想お聞かせくださいね〜。ではではまたっ。

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