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MO−2で、デュオは格納庫に向かって歩いていた。 「デュオ、どうした?」 「トロワ」 デュオはトロワの横をすり抜けようとして遮られた。 「何? なんか、用?」 「おまえこそ、何か急ぎか?」 「え……あの、ヒイロを捜してて」 「ヒイロなら医務室じゃないか?」 「え、そうなの?」 部屋にいなかったから、てっきりガンダムのある格納庫だと思ったのだが……。 「みんなで乾杯しようと言っていたのはおまえだろう」 「そうだけど、あいつが素直に賛同するとは思えなくて」 「カトルが待っている。行ってみよう」 「ああ」 けれど、医務室にはヒイロはいなかった。 「いない……」 「何をがっかりしてるの」 乾杯しましょう、とカトルがうれしそうに言うので、デュオもそれ以上落ち込んだ顔をしていられなかった。 3人で乾杯し、のんびりと話をしていると、ふとカトルはここにいない2人のことを思い出したらしかった。 「ヒイロも五飛も、どうしたんだろう」 「ふたりともさっき出て行ったぞ」 「……え?」 デュオはトロワを振り返った。 「どうした」 「だってさっき、ヒイロは医務室じゃないか、って言っただろ!」 トロワはグラスを持ったまま目を逸らした。 「俺と会った時にはもう、ここにいなかったってことなのかよ」 「そうじゃない。俺は医務室に来い、とヒイロに言った」 「でも、……でも……っ」 「あいつとも乾杯したかったんだがな……」 デュオは苛立ってきて立ち上がった。 「どういうことだよ。医務室にいるって言ったから、俺は格納庫に行かなかったのに」 「俺は嘘をついた訳じゃない。あいつが格納庫にいたのは確かに見た。一緒に乾杯するために、医務室に来いとも声をかけた。だが、これだけ待っても来ないということは……おそらくもう出立したのだろうと……」 「詭弁だ……」 「何と取られても仕方ないな。行き違いがあったようだ」 「トロワ、デュオを哀しませちゃだめだよ」 カトルがため息をついた。 「デュオも、そんなに怒らないで。ヒイロにはまた会えるよ」 「カトル……」 デュオは椅子に崩れるように座り込んだ。 「あいつに……伝えたいことがあったのに」 「そう……」 カトルはデュオの頬にそっと触れた。 「きっと次に会った時には伝えられるよ」 「……だと……いいな」 カトルはデュオを抱き寄せて背中を優しく撫でた。 「そうだ、ぼくと一緒にL4コロニーに行きませんか?」 「え? なんで」 「ウィナー家の情報網を使えば、簡単にヒイロの居場所が調べられるかもしれない」 「……いいのか?」 「もちろんです。デュオ、早く伝えたいことがあるんでしょう?」 「ああ……」 「じゃ、そうしましょう。それがいいと思うよ」 「……じゃあ……お言葉に甘えて」 「うん」 カトルの邪気のない笑みに、デュオは微笑み返した。 「デュオ、あの後ヒイロには会えた?」 ウィナー邸へ帰ってきたデュオに、カトルは声をかけたが、そのしょげた雰囲気のデュオを見れば、返事など聞かなくても分かっていた。 「だめだった。……一足違いであのコロニーを出立したらしいんだ」 「どこに?」 「地球だって。で……地球にも行ってみたんだけど、会えなかった。なんか……途中でシャトルがトラブってさ。乗り換えたりなんだり……で時間が掛かって、着いてみたらもういなくて……。足取りはそこで切れちまった。もう少し、後もう少し……と思ったんだけど」 「まあ……またぼくの方でも捜しますし。少し休んでください。すごく疲れてる顔してる」 「……うん」 デュオはカトルからの通信で、一度戻ってきませんか? と言われて戻ってきたのだった。毎回、ウィナー家の情報でデュオが現地に飛び、ヒイロを捜し求めるのだが、後一歩というところでつかまらず、いつもその後のヒイロの足取りを追い続け、放っておくとデュオはそのままウィナー邸には戻ってこなくなってしまう。そんなデュオを連れ戻すのは、いつもカトルからの通信だった。 「そんなにがっかりして。……大丈夫、きっと見つかりますよ。だから笑ってください」 「……カトルは優しいな。俺の都合でおまえを振り回してるのに……」 「そんなことないですよ。ぼくは君が幸せになってくれればそれでいいんです」 本当にいい奴だよなあ、とデュオはしみじみ思った。 「それで……その後は?」 五飛はバルコニーに手をついて外を眺めていた。カトルは五飛と同じようにダークスーツを着て佇んでいた。地球での会議に出席中で、今はちょうど休憩時間だった。 「ちょっと遅れた情報を流してるよ。こんなことを続けていると、デュオが可哀想になってきちゃうね」 「何を言っている。おまえが言い出したことだろうが」 「そうなんだけど、ね。……ウィナー邸でしょげているデュオを見ていると、慰めてあげずにはいられないよ」 「……抜け駆けする気か」 「そうじゃないけど。……でも、ヒイロに会わせたくないのは君も同じでしょ?」 「まあな」 だからこそ、デュオに会わせない工作に手を貸している。デュオには分からないように宇宙港のシステムに介入したり、シャトルを遅らせたり、怪しまれない程度の遅延など、様々な手を使ってデュオの足止めをしている。ヒイロの足取りを追わせないようにするためにデータの改ざんなどはトロワがやっている。 「デュオが哀しんでいて、俺がつらくないとでも思っているのか」 「そんなことないよ。でも、君だってあんなデュオが間近にいたら、ちょっと揺れるんじゃないの?」 「それなら、俺の邸にデュオを招待しよう」 「ちょっと待ってよ。デュオはぼくのところにいるんだから」 「あいつ自身に聞けば、気晴らしにL5に来る気になるかもしれんだろう」 ふたりは黙って睨み合った。 「カトル様、失礼します」 ふたりが睨み合っているところにカトルのボディーガードがあわててやってきた。 「どうしたの?」 「ウィナー邸からの連絡で、デュオ様が姿を消した、と」 「……なんだって? 一体どういうこと」 「それが……」 デュオは突然荷物をまとめて出て行ったというのだ。どうして出て行くのか聞いた執事に、デュオは申し訳なさそうに頭を下げ、カトルによろしく言っておいてくれ、と言い残したらしい。 「どうやら……悪巧みがばれたわけじゃないらしいね」 ほっとしたものの、事態は全く楽観できない。デュオは業を煮やして自分でヒイロを探しに行ったのだろう。ウィナー邸にいさえすれば、『一向に見つからない』で押し通していてもよかったし、たまにそれらしい情報を見せて、デュオにまやかしの希望を持たせることもできたのに。 「デュオの居場所を捜して」 「かしこまりました」 男はあたふたとふたりの前からいなくなった。カトルも落ちつかなげに外を見ていたが、目はもっと遠くのどこかを見ているようだった。五飛はカトルを凝視していた。 「今は会議だが、終わったら」 「そうだね。ぼくらもデュオを捜さなきゃ」 「ああ」 会議中より余程真剣な顔をして、二人は頷いた。 だが、デュオはふたりのさらに先を行っていた。ヒイロの居場所をつかんでからウィナー邸を飛び出したのだ。誰かの妨害を受けているなどとは考えていなかったが、確実に会えるための情報をつかむために、デュオはずっと自分自身でもヒイロの居場所を捜していた。 「……ヒイロ!」 デュオはゆっくり振り向くヒイロを見ていた。 「ヒイロ……」 デュオはよろめくようにヒイロに歩み寄った。 「デュオ、どうした? どこか悪いのか」 ヒイロに抱きついたデュオは、ヒイロが最後にデュオを見た時よりかなり痩せていた。 「どこも悪くないよ。ただ……おまえに会いたくて、ずっと捜してたんだ。ただ、それだけ」 「……とにかく、ちょっとそこに座れ」 公園で再会したヒイロは、デュオの様子を気遣って、デュオをベンチに腰掛けさせた。 「本当に大丈夫か。随分やつれているように見える」 「俺はいいんだ。それより、言わなきゃいけないことが……」 「いいことなどない。ちゃんと食べているのか。規則正しい生活をしないと、身体にどんな悪影響が出るか分からない……」 デュオは、眉を寄せて怖い顔をしながらもデュオを気遣ってくれているヒイロの様子がうれしくて、自然と微笑んでいた。 「何を笑っている」 「うれしいんだよ……ヒイロに会えて」 デュオは泣きそうな顔をして、ヒイロに手を伸ばした。その手はヒイロの頬に届いた。 「おまえに言いたかったことがあって」 「……さっきもそう言ったな。なんだ」 「俺……」 まっすぐなヒイロの視線に、デュオの顔が赤くなる。さっきまでヒイロがもうここにいなくなっていたらどうしよう、と不安に駆られていたことも、今度こそ会うんだと懸命に走ってきたことも、会えれば言おう、言おうと決めていた言葉も、何もかもがデュオの中からなくなってしまった。 「お、俺」 「……デュオ」 ヒイロはデュオをじっと見つめて言った。 「好きだ」 「……えっ」 「おまえが好きだ」 デュオの目が見開かれる。 「おまえは……?」 「お、俺っ?」 デュオは小さく頷かれ、一層赤くなった。 「俺も、俺もだよ。……俺も……ヒイロが……っ、好き……」 「……そうか」 ヒイロはほっとしたように笑みを浮かべた。 「MO−2で、おまえに会って気持ちを伝えてから出て行こうと思っていたんだが、五飛がすぐに出立すると言っていて、それがいいかもしれない……と思って、何も言わずに出てしまった。その後、おまえに連絡して言えばいいと思ったんだが……なぜか、おまえの居場所がつかめなくて。おまえ、どこにいたんだ?」 「……ずっとL4コロニーにいたけど」 「L4? まさか、カトルのところか」 「ああ。あいつ親切なんだぜ。ずっとおまえを捜すのを手伝ってくれて」 ヒイロは怖い顔をしてデュオを睨みつけた。 「な……なに……」 「まあいい……」 ヒイロは立ち上がってデュオに向かって手を差し出した。 「何……っ?」 「おまえさえよければ、と言うつもりだったんだが、変更だ」 「は?」 「一緒に暮らそう」 「……ヒイロ」 「いやか?」 「い、いやじゃない!」 ヒイロはほっとしたらしかった。 「よかった」 デュオの手をつかみ、ゆっくりと立ち上がらせる。 「もう二度と離さない」 「ヒイロ……俺も。ずっとそばにいたい」 「なら、そうするぞ」 ヒイロが真剣そのものなので、デュオはうれしくなってヒイロに抱きついた。 |
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