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「カトル」
「デュオ、おはよう」
 朝起きると、カトルはすでに朝食を終え、身支度をすっかり整え終わっていた。
「もう……出かけるのか」
「ええ。11時から会議なので、急がないと」
「そっか」
 デュオは少し俯いたが、すぐに顔を上げてにっこり笑った。
「じゃ、気をつけて」
「ええ。ありがとう、デュオ」
 カトルが微笑むのを見て、デュオはうれしそうな顔になった。カトルはそんなデュオの様子に、思わず抱きしめたくなったが……それを実行することはできなかった。
 一歩、デュオの方に足を向けようとしたその途端。
「カトル様」
「……まだ時間はあるだろ?」
「いえ、もうお車にお乗り頂かないと、時間的に厳しゅうございますが」
 カトルは名残惜しそうにデュオを見つめていたが、息をついて握っていた拳をほどいた。
「分かったよ。じゃ、行ってくるね、デュオ」
「いってらっしゃい。気をつけて」
「うん」
 カトルを見送るデュオが、最近切なげな顔をしている気がするのは、気のせいだろうか。ガンダムパイロットだったデュオが、脆さを併せ持っているなんて聞いていなかったし、たとえそうだとしてもにわかには信じられなかったが……。
 でも、寂しそうなのは何となく感じていた。
 いつもカトルが帰ってくるまで起きていようとすると使用人たちからデュオの様子を聞いていた。でも、カトルが帰るのは本当に真夜中で、ここ数日カトルはデュオの寝顔しか見れていなかった。
 その日も、邸に帰り着いたのは日付が変わっただいぶ後で、午前3時を越えたところだった。寝室は一緒だったから、キングサイズのベッドに、デュオがひとりで眠っているのをカトルは眺め、ため息をついた。
「ごめんね、デュオ」
 声に出さずに呟き、そっとデュオの頬をなでる。
「ん……」
 カトルは起こしてしまったかと、あわてて指を離した。
「……カトル……」
 どきっとして、カトルは息をのんだ。だが、それは寝言らしかった。
「カトル……」
 そう何度も呼ぶデュオを眺めていると切なくて、カトルはそっとデュオを起こさないようにデュオの額にくちづけを落とした。


 翌朝、カトルは昨日と同じように、ばたばたしながら出掛けるところをデュオに見送られようとしていた。
「今日も、会議……なんだよな」
 寂しいけど、そんなこと言えるわけがない。戦争中の頃のことを思えば、全然いい。同じ家に住んでいるんだし、いつだって会えるんだから。寂しいなんて言ったら、ばちがあたるだろう。
 それでも、……それならどうして、こんなに胸が締めつけられるように苦しいんだろう。そばにいられるのに、どうして。
 そばにいられるからこそ、ほんの少しのすれ違いが以前より一層こたえるのだと、デュオは最近思い知った。それでも、この痛みはそばにいる故なのだから、贅沢な痛みなのだろう。これ以上の幸福を望むなんて、いいわけがない。望みすぎると全てを失ってしまいそうで……デュオは恐かった。
「ええ。でも、デュオ」
「え?」
 カトルはうれしそうに微笑んで、デュオを抱きしめた。
「カトル」
「今日は絶対早く帰るから。一緒に夕食食べましょう。それから、一緒に眠ろうね」
「……カトル」
 軽くデュオの頬にくちづけると、デュオは赤くなったがうれしそうに微笑んだ。デュオはそっとカトルの手を握りしめ、俯いた。
「こうしてると……おまえのぬくもりがつたわってくる」
「……手を繋ぐと、ですか?」
「うん」
 カトルの手はひんやりしているけど、ずっと手を握っていると、ほんのりあたたかくなっていた。
 デュオは手を持ち上げ、頬に当てた。
「おまえの手はちょっと冷たいけど、でも、あったかいんだ」
「冷たいのに……あたたかい?」
「うん……矛盾してるって言われそうだけど、でもあったかい」
 カトルはデュオが愛しげにカトルの手に頬をすり寄せているのを見て、微笑した。
「手の冷たい人は心が温かいっていうから、とか?」
「ほんとにあったかいんだぜ? ほら」
 そう言うと、デュオはカトルの頬に今まで握っていたカトルの手を触れさせた。
「あ」
 確かにあたたかかった。だが、それは……。
「デュオの体温が移ったんだよ」
「それでもさ、あたたかなんだ」
 デュオはそう呟いて、手を下ろした。
「こうしてぬくもりを感じていられるくらい、いつもそばにいられたらいいのにな……」
「デュオ」
 カトルはデュオの手をそっとほどき、今度は自分の手でデュオの手を握った。
「カトル……?」
「君の手も冷たいよ」
 カトルはそう言って、頬に押し当てた。
「でも、あたたかくなってきてる。ぼくの手をあたためてくれたから、冷たくなってしまったのを、ぼくのぬくもりであたためなおしたのかな」
 だったらいいな、とカトルは呟いて微笑した。
「カトル……」
「君の手も、つめたくてあたたかい」
「……うん」
 そっと手を離し、カトルはデュオを抱きしめた。
「ぼくも君とずっと一緒にいたいよ。今日は絶対すぐに帰ってくるから。帰ったらいっぱい話をして、一緒に食事して、遊んで、……一緒に寝ましょうね」
「ああ。待ってるから」
 カトルはデュオにキスをしてから、名残惜しげに腕をほどいた。
「気をつけて」
「うん。行ってきます」
 カトルを見送るデュオの顔には、昨日までのような寂しさはもう浮かんでいなかった。

いかがでしたでしょうか?
手をつなぐと、相手の手のぬくもりが伝わってきますよね。カトルとデュオには、いつでも手をつないでいてほしいな〜と思います。
よかったら感想お聞かせくださいね。ではではまた。

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