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「……っだめ」 デュオはベッドに押さえつけられ、ヒイロにくちづけられていた。とても13歳とは思えない力で、ヒイロは5歳年上のデュオの手首をシーツに縫い止めていた。デュオが病気を患っていてサナトリウムで静養しなければならない状態なのを差し引いても、デュオはヒイロの力の強さにおののいていた。 「病気が……うつる……っ」 ヒイロはようやく顔を上げたが、デュオの言葉に恐怖したから、などという理由からではないようだった。さっきより一層きつい眼差しがデュオに注がれる。デュオはまるで自分が悪いことをしたかのように睨みつけられ、瞬いてヒイロを見上げた。 「ヒイロ、俺は病気なんだ。……前にも言っただろう。……こんなことして……もしおまえに伝染したら大変なことに……」 「だからなんだよ」 「ヒイロ」 「移るなら、移してみろ。だから、俺を拒むな……っ」 「……っ!」 デュオはつらそうな顔をしたヒイロを見上げ、微笑した。 「俺がおまえを拒むわけないだろ?」 ヒイロはデュオに視線を戻し、息をのんだ。 「……だって……あんなに拒んで」 「健康なおまえに、病気になってほしくなかったんだ」 「でも」 「それだけ……だったんだ。おまえを拒んでいた訳じゃない」 ヒイロの手の力が緩んだのを感じて、デュオはヒイロの手から手の自由を取り戻すと、そっとヒイロに手を伸ばした。細くて、力を込めて握りしめたら折れてしまいそうな程、華奢な腕が、ヒイロの頬に指を滑らせた。 「俺の病気は……体液に接触することで感染するんだ。だから、この病気の人間の血を輸血されて……俺は感染した。発病してからは家族も俺に触れようとしない。そのままここに連れてこられて……。だから、ヒイロも、俺に触れちゃだめなんだ」 「体液って……涙もだめなの」 「そうだな。だめだろうな」 「唾液も?」 「ああ。だから、キス……しちゃいけなかったんだ」 ヒイロはもう一度キスをした。 「ヒイロ……!」 「いいよ」 「……え?」 「移したらいいよ。同じ病気になってやる。だから、デュオに触れさせて」 「……そんな……」 「ひどいことはしないから、……デュオを抱き締めたいんだ」 デュオはヒイロの言葉に赤くなった。 「俺は病気なんか怖くない。デュオを恐れたりもしない。触りたいんだ。もっと、もっとそばに行きたい。誰よりも、誰も近づけなかったのなら、この世で一番デュオに近いところで寄り添いたい。俺は、……俺は……デュオが好きなんだ……っ!」 デュオはヒイロを抱き締めた。 「デュオ……」 「俺もだよ。……俺も……ヒイロが好きだ」 「……っ」 「だからこそ、おまえを病気にするわけにはいかないんだ」 デュオはヒイロを抱き締める腕を緩め、ベッドの上に起き上がった。 「俺の病気が治ったら……俺を抱いて」 「デュオ」 「それまで待っていてくれるか?」 デュオの瞳が揺らめいていた。ヒイロは待ってなどいられないだろうと言われている気がして拳を握りしめた。 「待ってる。デュオがよくなるまで待ってるから。早く身体を治せよ」 「ヒイロ……」 デュオの目から涙がこぼれ落ちた。そっと拭いながら、デュオは微笑んだ。 「ありがとな……ヒイロ……。そんなこと言ってくれたの、おまえが初めてだ」 みんなに怖がられ、嫌がられ続けてきたデュオにとって、ここまで無条件に受け入れてくれる人は初めてだった。 「泣くなよ……年上なんだろ?」 ヒイロはハンカチでデュオの涙を拭った。 「……っあ、ヒイロ」 「触らなきゃいいんだろ? 触ってねえだろ」 「……そのハンカチ……もう使えなくなってしまう」 ヒイロは舌打ちした。デュオは微かに肩が震えた。 「消毒してもだめなのかよ」 「危険なんだ」 「分かったよ……しかたねえな」 後で捨てればいいんだろ、そう言って、ヒイロはデュオの涙を拭ってくれた。 「あ……ヒイロ、待って」 ハンカチを捨てようとしたヒイロを止めて、デュオは目を伏せた。 「何」 「そのハンカチ……ほしい」 「これ……?」 「ああ。ヒイロが使うわけにはいかないだろうけど……俺には害がないから」 「……いいよ。じゃ、これ」 真っ白な綿のハンカチに、小さな青い飛行機の刺繍がしてあった。デュオはそのハンカチを大事そうに抱き締めた。 「ハンカチならもっといいのをプレゼントする」 「……ヒイロのものが……ほしかったんだ」 ヒイロは途端に赤くなった。 「……なら……いいや」 そう呟いて、ヒイロはちょっと背伸びをすると、デュオの頭をそっと撫でた。 「ヒイロっ……?」 「すぐによくなるっていうおまじない」 「え?」 「風邪引いた時に母さんがいつもしてくれるんだ。……だから……」 デュオはうれしくなってヒイロに抱きついた。 「デュオ、なに……」 「ありがとう、ヒイロ。もう少し……頑張れそう」 「……おまえはすぐ病気じゃなくなるよ。俺がついてるんだから、なんの心配もいらない」 「……うん」 デュオは優しく背中を撫でてくれているヒイロの手の感触に、今までに誰からも与えられなかった優しさを感じていた。 |
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