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砂をざーざー吐くほど甘いだろうか…。甘いといいな〜。
それではごゆっくりどうぞ♪

 プリベンターに入ると決めた時、デュオは、またあの硝煙と血生臭い、危険な場所へ戻るのだと少なからず覚悟していた。もちろん、それは一面では真実だったが、実際はそういう場面は少なく、それよりも華やかな場所で、ひそやかにテロ行為を阻止する、という役割が増えていた。
 それも大切な平和を維持する任務の一つだとは分かっていたが、それでも、デュオはしばらくそういう世界に慣れられずにいた。戸惑いつつ、なんとかうわべを取り繕って、仕事に精を出す…言葉で言うのは簡単でも、パーティなど縁のなかったデュオには、堅苦しいだけのものだった。
「ふう」
 パーティ会場の人いきれから逃れて、バルコニーに出てきたデュオは、地球の夜空を見上げた。
 コロニーでは決して見ることが出来ない、瞬きを繰り返す星々。大気があるからだと分かっていても、揺らめきながら地球に光を投げかけてくる夜空の星は、デュオの視線を奪う。
「何度見ても綺麗だな」
 ため息混じりに呟くデュオは、背後に視線を感じて振り返った。
「こんなところで何をしている」
「五飛」
 デュオはほっとする自分自身に内心苦笑した。
 今回、一緒にこのパーティ会場でテロを未然に防ぐために派遣されてきたのだが、五飛はしっくりとスーツが似合っていて、その上、こういう雰囲気にもすぐにとけ込んでしまっていた。五飛は張家の人間として、パーティにも社交界にも慣れていて、上流階級の人間と知り合いも多い……らしい。
 デュオには初めのうちは「誰かがかついでるんだろ」などと思っていたが、真実だと分かると、意外な五飛の一面に驚きを隠せなかった。……もっとも、張財閥といえば、デュオでも前から名前を知っていたくらいだから、五飛がそこのお坊ちゃんなら、境遇としてはカトルと大差ないはずで、すぐに気づかなかったデュオの方が鈍いのかもしれないが。
 ……それでも……、デュオは五飛を見ていると、どうしても上流階級の雰囲気と五飛とを結びつけられなくて、いまだに違和感がぬぐえなかった。
「ちょっと……疲れちまって」
 デュオはちょっと笑って見せ、五飛が表情を険しくする前に言葉を継いだ。
「ごめんごめん、すぐ戻るからさ」
 決してさぼるつもりはないのだが、あの上品な言葉、上品な雰囲気、芸術品みたいなドレスやアクセサリーを身にまとった淑女たち、何時間掛けて用意したのか思わず考えてしまいそうになる上等な料理たち…すべてがデュオにはそぐわなくて、デュオの息を詰めさせる。五飛は慣れているのだろうが、デュオはあそこにいるだけで結構つらかった。
 けれど、五飛はデュオの隣に来て、空を見上げた。
「……五飛?」
「まあ、たまには息抜きも良いだろう」
 意外な言葉に、デュオは五飛をまじまじと見つめた。その視線に五飛は視線をおろし、デュオを見た。
「どうした?」
「え? 意外なお言葉だと思って」
 五飛は苦笑すると、てすりに背中を預けながら、パーティホールをみやった。
「俺も慣れているとは言ったが、好きではない」
「……そっか」
 よかった、とは言わなかったけど、デュオはうれしくなった。
 五飛は隣のデュオを見つめた。
「この後、予定はあるか?」
 瞬き、デュオはもう一度五飛を見つめ直す。けれど五飛は言葉を取り消すこともなく、デュオの返答を待っている。
「……仕事……終わったら、ホテルに帰るだけだけど」
 五飛と一緒に派遣されてきてるから、同じホテルが用意されている。シングルが2つ。確か部屋番号は隣り合っていたと思うのだが。……デュオは特にブリュッセルに用事はなかったし、別件の仕事をプリベンターから任されているわけでもない。デュオがこの仕事だけで疲れ切るのを見越してなのか、いつもなら同じ任地で重なっている日程の仕事が同時に幾つも回されてくるというのに、今回は時間があった。
「そうか。なら、つきあわないか?」
「五飛も暇なのか?」
 五飛が淡々と仕事をこなすのは知られているから、五飛にだけ仕事を言いつけられている可能性もあったとデュオは考えていたのだが。……そして、五飛がその仕事を手伝わないかとか…そういう話の展開を予想していたデュオにとって、五飛の言葉は意外だった。
「ああ。ここの警備も、後2時間ほどで終わるだろう。そうしたら、ホテルに帰って寝るだけだからな」
まだ夜になって間がないから、寝るにしても早すぎるだろう。遅寝が習慣のデュオには、ちょっと反論を唱えたい気分になって、それでも賢明にも何も口を挟まず、デュオは五飛に頷き返して見せた。
「いいぜ。どこ行くんだ?」
 そう聞かれて、五飛の視線が泳いだ。
「なに、どこかに行くんじゃないのか?」
「別にそういうわけじゃない。……ちょっと……その」
 いつも、ストレートに話す五飛がこんな言い方するなんて珍しい。一体、何が五飛をためらわせているのか。デュオはいぶかしげに五飛を見つめた。
「……お、俺の部屋に……来ないか、と、……思って……」
 最後の方は、パーティの喧噪にかき消されてしまった。
 デュオは瞬き、五飛をじっと見つめ……返答に困っていない自分がおかしくなって思わず笑ってしまった。
 突然笑い出したデュオに、五飛は頬を赤く染めた。
「な、何がおかしい! 俺が誘ったりしたら、そんなに笑えるか!?」
「あ、違う違う。うれしいよ、俺。たださ、おまえがそんな風にためらってるのに、俺は全然断るつもりないんだなあって思ったら、自分のためらわなさがおかしくてさー」
 さりげなく返答を挟まれて、そのことにしばらくしてから気づき…、五飛は咳払いをしてからデュオを見つめ直した。
「じゃ、仕事を片づけて早く帰ろう」
「へえっ……。五飛もそんなこと言うんだなあ」
 警護といっても、とりあえず客の無事を確認できればそれでいいし、会場も主催者も、全部ひっくるめてまでのセキュリティを任されているわけではないので、客たちが帰ったのを確認すれば、後は主催者側に委ねて引き上げることも出来ることになっている。
「悪いか」
 五飛がこの後のことを楽しみにしているのだと、少し怒ったような照れ隠しな表情にデュオは気づいて、また少し笑ってしまった。


 仕事も終わって、デュオは今日で2泊目のホテルに五飛と戻ってきていた。
 パーティ会場ではほとんど食べられなかったから……と、デュオが近くの店でジャンクフードを買うのを五飛は苦々しげに見つめていた。部屋が台所付きになっているなら、きっとデュオを止めただろう。そして材料を調達して、ホテルで料理を作ってくれたに違いない。さすがに五飛も、ホテルの調理場を借りてまで料理するだけの気力は残っていないらしく、今夜はデュオと同じく簡単にすませるつもりのようだった。
「あー、お腹空いた!」
「どうして会場で食べられないんだ」
 別に、警護しているから食べてはいけない……などとは言われていない。ローテーションを組んで、別室で食事を出してくれることにもなっていたし、その時にでも食べようと思えば食べられたはずなのに。
「だってさー、あそこで出る食事ってさ、あのパーティ会場で出てるのと同じなんだぜ?」
「それのどこがいけない」
 デュオは袋を持っていない方の手を、ぶんぶん振り回した。
「冗談じゃねえよ! あんな堅苦しいもん、食べらんねえって」
 ……それは激しくデュオの場合だけだろう、と五飛は思った。他の人間は皆喜んで普段食べられない高級料理だと舌鼓を打っていたから。
 デュオは、五飛を睨み返した。
「じゃ、五飛はなんだよ? おまえだってお腹空いてるんだろ」
「ああ。だからおまえと同じく買い物をしていたんだが」
 見ていただろうが。とでも言いたげな五飛に、苛立たしげにデュオは言い募った。
「どうして会場で食べなかったんだよ」
「フランス料理は好きじゃない」
「っ……あっそうですか」
 げんなりした風のデュオを見やり、五飛は苦笑した。
「というのは……半分嘘だ。おまえにつきあった」
「へ?」
「おまえが食べられないような感じだったのに、ひとりで済ませてしまうのは、どうもな……」
「なんだよ……それ」
 デュオは瞳が揺らめいていた。
「んな……俺に気を遣うことなんてなかったのに」
「俺がしたくてそうしただけだ。気にするな。それより、食べるんだろう?」
「あ、ああ」
 袋から出てきたのはハンバーガーだった。五飛はハンバーガーなど、何年ぶりだろうと思った。美味しそうに食べているデュオを見ていると、五飛もうれしくなる。一口食べてみたが、以前と違い、なぜかそんなに悪くはなかった。
 それにしても……。五飛はデュオの姿に笑みがこぼれてしまう。
 大体、どこの世界に黒のタキシードを着てハンバーガーをぱくつく奴がいる? ……いや……ここに2人いるのだが。デュオはどんな格好をしていてもデュオだな……とふと思い、五飛はそれがデュオの本質を示しているような気がして、うれしくなった。
「なんだよ、おまえ腹空いてねえの?」
「ハンバーガーもいいが、……」
 五飛は立ち上がってデュオの肩をつかむと、屈んでくちづけた。
「っ……」
 デュオは短くはないくちづけに息を乱していた。くちびるの離れた五飛を見つめ、動揺が隠せないようだった。
「五飛……」
「いいか?」
 恥ずかしい台詞を囁かれるのではないかと緊張していたデュオは、五飛の言葉に目を閉じて身体をこわばらせた。五飛はデュオを軽く抱き締めたまま、優しくうなじにキスを落とした。
「そんなに緊張するな。おまえに触れたいだけだ。……デュオ」
 愛している。……と耳元で囁かれ、デュオは真っ赤になった。そんなデュオの様子が五飛には可愛らしく映る。もう……こういう関係になって1年以上たつのに、未だに抱き合うのに慣れない。一緒に暮らしているわけではないし、下手すると前にしたのは何か月前だったか、などということもざらなので、デュオの側にとっても、慣れたくても慣れるほどやれてない、ということになりそうだった。
とにかく……こんな貴重なチャンスを逃すわけには行かない。次の出張も、デュオとふたりきりで出来るとは限らないのだ。ヒイロあたりがついてきたら、とてもじゃないがデュオとふたりきりなんてなれないだろう。
 五飛はデュオをベッドに横たえ、五飛もベッドに上がった。デュオは恥ずかしそうに目をそらしていたが、五飛がデュオの顔の両側に手をついたのが視界に入ると、思わず五飛を見上げた。五飛は安心させるように笑みを浮かべた。
 ただそれだけで、デュオの緊張はほぐれる。
「デュオ」
 五飛が囁くと、デュオはうれしそうに微笑んだ。
「……五飛」
 そう呟いて五飛の首に腕を絡め、しがみついてくる。五飛はデュオの上着のボタンを外しながら、一度デュオの腕をほどかせてシャツもはだけさせた。なめらかな肌にくちづけを落とすと、デュオは、ほんの微か、声を上げた。
「一緒に……一緒に住まないか、デュオ」
 五飛の言葉に、デュオは瞬いた。
「……いいのか?」
 五飛はデュオの髪を撫でていた。
「ああ。……もっと早く言うべきだったな。だが……おまえの都合や俺の都合を考えては、ためらってしまっていた。……ためらう前に、一歩踏み出してみれば良かったのに」
「五飛……ありがとな」
 デュオはうれしそうだった。
「俺、おまえと一緒にいたかったけど、……こういう話出なかっただろ。だからおまえにとっては……俺と一緒にいるのはまずいのかな、と思ってたんだ」
「そんなことはない。長老たちが反対しても、おまえと離れるつもりはない。……俺は……おまえに拒まれたら……と、そればかり心配していたんだ。臆病者、だ」
「おまえは臆病者なんかじゃないよ」
 デュオはおかしそうに笑った。
「誰だってためらうことはあるだろ。いつも即断即決できるからって、何に対しても、誰に対してもというわけに行かない場合もあるよ。……これからはもっとずっとそばにいられるようになるかな……」
「なるだろう。いや、させてみせる。……何より……家に戻ったらおまえがいるんだから」
「俺が出張の時もあるだろ」
「それでも、だ。逆の場合もあるだろうが、それでも、帰る家が同じなんだ。一緒にいられる時間は増えるはずだ」
「……だな」
 それについても不安はあったが、それ以上デュオは不安要素を並べる気にはなれなかった。なにより、五飛といられるなら、どんなに困ったことが起きても、何とかしてみせると思っていたから。
 ほっとしたのか、デュオの身体から力が抜けた。五飛はそんなデュオの頬をそっと撫でて抱き締めた。


いかがでしたでしょうか? らぶらぶ甘々の上に、幸せさーんうっとりさーん、はあお腹いっぱいvvな5×2とは難しい(あ、このふたり、お腹空かせたまま話が終わってる…(笑))。らぶらぶはいつも書き慣れてるのですけど、他に指定がなかったも同然なので、つい趣味に(スーツ…)走ってしまいました(苦笑)。そして、五飛は髪はおろしてて、さらさらヘアー希望!!
そして黒瞳が、じっ……とデュオを見つめているのですvvv デュオ可愛いから…v 五飛も目が離せないのね。
なんて…(汗)コメントで盛り上がってしまった。気に入って頂けるとうれしいです〜。

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