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「こんにちは、デュオ」 ウェイターのバイトをしている最中に名前を呼ばれて、デュオは飛び上がりそうな程驚いた。 「お、お嬢さん!」 リリーナはにっこり微笑んでデュオを見つめていた。 「ひとりなんですけど……どちらに座ってもよろしいのかしら」 「あ、ああ、空いてるところにどうぞ」 「では失礼して」 オープンカフェではあるけど、今は外で食べるにはかなり寒い。窓辺の席を選んだリリーナは、水の入ったグラスを置いてくれるデュオを楽しげに眺めていた。 「どうぞ」 「ありがとう、デュオ」 「……お嬢さん、一体何しに……」 「あら、お茶をしに参りましたのよ」 当たり前じゃない、と言いたげに微笑むリリーナは、とてもそれだけだとは思えない。何にしようかしら、と言いながら、彼女はデュオを見上げた。 「このケーキとダージリンをホットで」 「かしこまりました」 メニューを手渡し、リリーナはデュオを見つめている。 「俺の顔に何かついてる?」 「いいえ何も」 「じゃあ、なんでそんなに見てるんだ?」 「楽しいからよ」 それ以上何も言えなくて、デュオはリリーナのテーブルから離れ、カウンターの中に入った。 「チョコレートケーキをひとつと、ダージリンのホットをひとつ」 「了解」 ヒイロがケーキをショーケースの中から出している。デュオはダージリンの準備を始めた。 ドアにつけられたベルが鳴った。 「いらっしゃいませー」 あわててデュオがカウンターから飛び出してくる。 「……ヒルデ」 「こんにちは。近くまで来たから」 「……今、忙しいんだけど……」 「あらー、邪魔しに来たんじゃないわ。コーヒーを入れて。それから、クッキーも」 「……かしこまりました」 ヒルデはリリーナのテーブルに近づいた。 「ここ、座ってもいいですか?」 「どうぞ」 「ありがとう」 ズボンの彼女はすとんと気兼ねなく腰を下ろし、リリーナを見た。 「今日は時間があるんですか?」 「ええ。ちょっとだけですけど……」 ケーキを食べるくらいの時間、ということなのか。相変わらず外務次官は忙しいらしい。 「デュオ、可愛いわね」 「そうでしょ」 ヒルデはデュオが好きだけど、デュオに特別に好かれていたいと思うのは、ちょっと諦め気味だった。だって……。 「ヒルデさんはいつもデュオと一緒にいられていいわね」 「いつもだなんて。そんなに近くにいる訳じゃないんですよ」 リリーナは瞬いた。 「だって、スイーパーグループで一緒に働いているんじゃ」 「いません」 「……あら、そうでしたかしら」 「私は今は別の会社で働いているんです。デュオはスイーパーグループに戻ったけど……。私はそもそもスイーパーグループの人間じゃないし。デュオとはよく会うし話すし、一緒にご飯とか食べたりもしますけど……なかなか進展しないんですよね。冷たくされてる訳じゃないんですけど」 デュオはヒルデに優しい。けれど、他の元ガンダムパイロットや、戦争中に知り合った人たちにも優しい。ヒルデはそんな風に、デュオが自分を特別には思っていないのではないかとうすうす感じていた。 だからといって、そばにいたくない訳じゃない。少しでもそばにいたい……そう思っている間は、このままでいようと思っていた。 「ご注文のチョコレートケーキとダージリンでございます」 ヒルデがリリーナの向かいに座っているのに驚きながらも、デュオはリリーナの前にケーキと紅茶を危なげなく置いた。 「ありがとう、デュオ」 「……どういたしまして」 ヒルデ、どうしてそこに座ってるんだよ、と言いたげな顔をしつつ、ヒルデの前にそっとグラスを置く。 「ありがと」 なんで? と思いつつ、デュオがカウンターの方に戻り掛けると、そこでドアベルが鳴った。 「いらっしゃいま……」 「デュオ、ひさしぶり」 「サリィさん」 サリィはプリベンターの制服の上にコートを羽織っていた。 「寒かったわ。ホットコーヒーをお願い」 カウンターに座ったサリィは、コートを脱ぎながら注文した。 「かしこまりました」 「ところで、ねえ、あの話考えてくれた?」 「あの話って?」 カランカランとドアベルが鳴り、キャスリンが飛び込んできた。 「キャスリン!」 「ひさしぶりー、デュオ。またサーカス見に来てね。……で、あの話ってなんなの?」 あ、私アールグレイのホットがいいわー。などと注文しておいて、キャスリンはサリィの横に座った。 「あら、トロワのお姉さんでしたかしら」 「そうよ。またうちの子を連れて行くつもりなんでしょ」 「そんな話はしてませんわ。私はデュオの話を……」 「デュオに話があるなら、トロワにもあるかもしれないじゃない」 鋭い、と思いつつ、サリィはごまかした。 「それならそれで、ちゃんとトロワに話をします」 「……でも」 なんか怪しい、とサリィを睨みつつ、キャスリンはデュオを振り返った。 「デュオもいやならいやってちゃんと言わなきゃだめよ」 「いや、キャスリンさん、俺は別にいやってわけじゃなくて」 「そうよ、私は無理強いなんてしてないですよ」 サリィの話は、プリベンターへの協力の要請だった。たぶん、デュオで手が足りないようなら、トロワにも話が行くのだろう。あるいは、ヒイロにとか。 「おまえが取られると、ウェイターがいなくなって困るんだが」 ヒイロは白い厨房服を身につけ、白い帽子をかぶっていた。 なら、店を休みにすればいい、とまでは、やはり言えないらしく、サリィは困った顔をした。 「まあまあ、その話はまだ先でいいんだろ? サリィさんもよかったらヒイロのケーキ食べてってくれよ。なかなかうまいんだぜ」 「そう。なら頂くわ。じゃあ……この赤いケーキをお願い」 「かしこまりましたーっ」 ヒイロ、と声を掛けると、ヒイロは低い声で了解、と呟き、ケーキを白い皿に載せて生クリームを添えた。 「お待たせしました、どうぞ」 ドアベルが鳴った。 「まあっ、リリーナ様、こんなところにいらしたなんて」 「ドロシー……」 「あ、あら、デュオ。こんにちは。私にもダージリンをいただけるかしら」 「……どうぞ、空いてる席にお座り下さい」 毎日毎日飽きないなあ……と思いつつ、デュオはカウンターに戻ってお茶の用意を始める。その間にドロシーはリリーナのテーブルにつかつかと歩み寄り、大仰にため息をついた。 「またこんなところにおいでになって」 「悪いかしら」 「デュオにお会いになりたいなら、お呼びになればよろしいでしょう」 「そんなことできるわけないわ。デュオはここで働いてらっしゃるのよ。お呼び立てなんて、できるわけがないでしょう」 「でも、リリーナ様がお会いになりたいのでしたら、……」 「そんなわがままを通してはいけないわ、ドロシー」 ドロシーはため息をついた。リリーナの言っていることの方が正しいと分かってはいるのだ。だが、それでもリリーナが忙しい合間を縫って、この小さな喫茶店に毎日のように足を運ぶのを見ていると、つい言いたくなるのだった。 「それに」 リリーナはケーキを食べるのを中断して微笑んだ。 「あなたもデュオに会いたくてここに来ているのでしょう?」 ドロシーの頬が微かに上気した。 「そんな……こと……」 「ないと言い切れるんですの?」 「……」 「お待たせしました」 ドロシーの前に紅茶が置かれる。 「いつも来てくれてありがとう、ドロシー。忙しいだろうけど、ゆっくり味わっていってくれよ」 「……あ……ありがとう、デュオ」 いつもデュオの淹れる紅茶は美味しい。邸で飲むメイドが淹れるお茶とは格段に味が違う気がする。メイドが手を抜いているわけではないのはドロシーも分かっている。 ……そう、特に違いはないはずなのだ。なのに、なぜか……ドロシーにはデュオの淹れてくれたお茶がこの上なく美味しく感じられて仕方ない。 「おいしい……」 「よかった」 顔を上げると、デュオがうれしそうに微笑んでそこにいた。 「っ……!」 「おかわりがほしかったらいつでも言ってください」 「……え、ええ……」 カトルがデュオから目が離せないの、よく分かるわ……と思いながら紅茶に再び口を付ける。 ドロシーは、きっとまた明日も来てしまいそうだと思うと、来れるうれしさと、どこか満たされないだろう切なさを同時に感じて、小さくため息をついた。 |
いかがでしたでしょうか? うーん、こんな感じかな? トロワと五飛はちらりとも出せなかったので申し訳ないような……。ちょっとでも楽しんで頂けたらうれしいです。 よかったら感想お聞かせくださいね。ではではまた。 |
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