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「記憶……戻って良かった」
 そう呟いたデュオに、トロワは静かに微笑んでくれた。ただ、それだけでうれしかった。……なのに……。
「本当にそうですね」
 カトルがやってきて、デュオに背中から抱きついてくる。
「カトル!」
「仲がいいんだな」
「なっ……」
 焦るデュオをよそに、カトルはにっこり微笑んだ。
「そうだよ。デュオのこと愛してますから」
「お、おいっ! カトル、離れろよ!」
「いーじゃないですか。インドネシアの別荘では、いつも一緒に寝ていたじゃない、デュオ」
 トロワの黙ったままの視線が痛い。
「それは……そういうこともあったけど、でも」
「君は傷ついていて、ぼくはずっと君を気に掛けてたんだよ。……デュオだって、ぼくにすがってくれていたよ。忘れたの?」
「忘れちゃいねえよっ! おまえには感謝してる。けど……」
 カトルのことをそういう風に好きな訳じゃ……。
 けれど、そんなこと恥ずかしくて言えるはずがなかった。
「それじゃ、俺はシャワーを浴びてくるから」
 そう言い残して立ち去ろうとするトロワに、デュオは焦った。
「あっあの! トロワ、待ってくれ」
「なんだ?」
「あっ……」
 デュオは真っ赤になった。
「あとで……話したいことがあるんだ。後で部屋に行ってもいいかな」
「了解した。30分後に来てくれ」
「分かった」
 トロワが見えなくなると、カトルはデュオに抱きついてるのを止め、デュオの正面に回り込んだ。
「トロワに話ってなに?」
「おっおまえには関係ねーだろ」
「ありそうな雰囲気」
「ねえってば」
 カトルは小首を傾げてデュオを見つめている。
「ぼくの気持ちに答えてはくれないの?」
 デュオは恥ずかしそうに俯いた。
「……でも……」
「別荘で抱き合ったこと、忘れてないよね」
「あっ……あれ、は……」
 デュオは、手を握り締めた。
「悪かったって……思ってる」
 カトルはデュオの首筋にくちびるを寄せた。
「あんなにぼくを求めてくれたのを、……悪かったって言葉で片づけるつもりなの」
「だから、悪かったって言ってるじゃないか。……俺、……もう、どうしたらいいか分からなくなっていたんだ。ヒイロは死んじまったと思ったし、もう戦えないし、……もう……」
「分かってます。……ぼくはそんな君につけいったんだ」
 デュオはくちびるをかみ締め、俯いた。
「ごめん、……俺……都合のいい時だけおまえにすがって、優しくしてもらって……! 嫌われたって、憎まれたって当然だよな……」
「嫌ったりしませんよ」
「カトル」
「もちろん、だからといって、諦めはしませんけどね」
 デュオは瞬いた。
「へっ?」
「君をあっさりトロワに渡したりはしません、って言ってるんです」
「……えっ……」
「当たり前じゃないですか。ぼくが好きな人を諦めなきゃならない理由、ありますか?」
「……だって……俺は……トロワが好きで……おまえのことは……もう……」
「だからって、そんな理由でぼくが身を引くことができるとでも?」
 デュオは呆然としてその場にかたまった。そんなデュオに、カトルはあくまでもにこやかだった。
「簡単に成就なんてさせてあげませんよ。……ぼくは本気で君を好きなんです。誰にも渡しやしません。……トロワにもね」
「カトルっ……! トロワに何もしないで……くれっ」
「トロワになんて、何もしませんよ。……ぼくの好きな人は君なんだから」
 カトルはデュオの手をつかむと、抱き寄せた。
「やっ……! はっ離せ!」
 いやがるデュオを押さえながら、カトルはデュオにくちづけた。
「なにするんだよ……!」
 カトルは苦笑した。
「ほら、あそこにいるのが誰か……分かりますか?」
 はっとしてカトルの視線を追うと、そこにはトロワがちらりと見えた。
「トロワっ!」
 デュオはカトルの腕から逃れると、通路を駆けた。
「トロワ、トロワっ!」
「……デュオ」
 息を切らして飛んできたデュオの様子に、シャワーを浴びたばかりだったトロワは瞬いた。
「今……何か……見た?」
 トロワはじっとデュオを見つめ、視線を逸らした。
「いや……何も」
「じゃあ、なんで目を逸らすんだよ。さっきのは、カトルが無理矢理……!」
 トロワはちらりとデュオを見た。
「だが……キスをするのは個人の自由だろう。俺がとやかく言えるようなものじゃない」
「言って欲しいんだ!」
 トロワは振り返った。
「……あ」
 デュオは真っ赤になった。
「デュオ……?」
 デュオは俯きそうになり、それをこらえてトロワを真っ直ぐ見上げた。
「俺……トロワが好きなんだ」
 握り締めた拳が頼りなく震える。
「好き……なんだ。トロワが俺をどう思ってるかとか、……他に好きな奴がいるのかどうかとか……全然わかんねーけど、俺はおまえが……誰より好きで……だから……だからっ……」
「だが、カトルとは……」
「カトルはどうでもいいんだ。俺は、……トロワが……」
 切なそうにデュオは呟いた。
「そりゃ……カトルに助けてもらったこともいっぱいあるし、支えてもらったこともある。一番気が合うから、なんでも相談できるし。……でも……ずっとそばにいたいって思ったのは……好きだって……そう思ったのは……トロワだから……」
「デュオ……」
「だから……教えて。トロワが俺をどう思ってるのか。……どんな返事が返ってきても、覚悟はしてるから。……返事を……聞かせてください」
 トロワはぎゅっと目をつぶっているデュオを見つめ、苦笑した。そして……そんなデュオの頬にそっとくちづけた。その感触に、デュオは目を開けた。
「トロワ……?」
「俺も、おまえが好きだよ」
 デュオは頬が熱くなった。
「本当に……?」
 トロワは頷いてみせた。
「さっきは……動揺してしまったが……おまえの様子を見る限り、どうもあれは嫌がらせみたいだしな。……そう思ってもいいのだろうか」
 とりあえずやはり確認してみてしまう自分に苛々しながらも、トロワはまだ不安が拭えなかった。あんなに惹かれていたデュオに、デュオの方から好きだと言ってもらえるなんて、なんだか夢のようで。だからこそ、さっきのカトルとのキスの方が、デュオからの告白よりもリアルな気がしてならなかったから。
「うっ、うん、そうなんだ。……カトル……俺のことが好きだって言って……トロワと俺を邪魔してやるって感じで……」
 デュオはため息をついた。
「どうしていつもはあんなに優しいのに、同じ優しい笑顔で、あんな恐いこと言えるんだろ」
 それはデュオが知らないだけだろう、とトロワは思ったが、あえて言わなかった。そんなこと、デュオが知っておく必要はないだろうから。なにより……これからはずっとトロワがデュオと一緒にいるのだから。
「なあデュオ」
「なに?」
「戦争が終わったら……」
 デュオはトロワを見つめた。
「一緒に……」
 突然、ブザーが鳴り響いた。
「敵襲だ!」
 デュオはトロワと顔を見合わせた。トロワは苦笑してデュオの肩に手を置いた。
「話の続きは戦争が終わってから、だな」
 デュオは微笑した。
「ああ、分かった。……じゃ、早く戦争終わらせなきゃ、な」
 ふたりはそろって格納庫へ走り出した。


いかがでしたでしょうか?
……私……デュオ受ならどんなカップリングも(甘々なら、だけど)好きなんですが……特にカトル×デュオが好きみたいで。なので、今回は難産でした。カトルが出てくると、デュオがついついカトルになついちゃうんですよ(汗)。トロワ×デュオも好きなんだけどな〜。トロワが大人っぽくて大好きなのvv それではまた。

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