驟雨


サイバーフォーミュラSINの2巻の話です。名雲×加賀です。



「……共に成長していく彼らには限界がない。そんな彼らに対抗しうるのは、同じく究極形であるこのマシンと……これを乗りこなせる者だけだ。確かにこれは、とてつもないモンスターだが……乗りこなすことができるはずだよ。風見君と同等の力がある者ならね……」
 加賀は黙ったまま名雲から凰呀に視線を移した。最初から加賀に選択肢などなかった。名雲の言葉に……凰呀に賭けるしかなかった。
 加賀は拳を握り締め、微かに眼を伏せた。
「話はまだ終わっていない」
 名雲の声に加賀は顔を上げた。エレベーターに乗るよう促され、加賀は2階へ連れていかれた。
 広い部屋だった。床には絨緞が敷かれ、壁際に家具が並ぶなか、中央にはベッドがあった。
 名雲の意図を察した加賀は、名雲を睨もうとして彼の表情が冷ややかなのに気づいた。別に、いやなら帰ればいい……とでも言いたげな雰囲気に、加賀は息をついた。
「……まあ、こういうのも…しょうがねーか……」
「話が早いな。だが……そう簡単に割り切られるようでは興醒めだ」
「……じゃ、どうしろっていうんだ」
 名雲は、手の平に納まる程度の小瓶を取り出し、加賀に手渡した。瓶の中には、透明なブルーの液体が揺れていた。
「……これは……?」
「催淫剤だ。……なに、心配はいらない。効き目は大したことないし、ほんの数時間のことだ」
「……別に……こんなもの、いらねーだろ? 俺は承知してるんだし……」
「そうか……、勝負は諦めるんだね」
 加賀は瓶を握り締めた。こんなものまで事前に用意されていることに、加賀は苛立っていた。
「……分かった。飲めばいいんだな」
 飲んで程なく、視線が揺れ、ふらつきだした。倒れそうになった加賀を、名雲は抱き止めた。
「どんな気分だ? 身体は動かなくても、意識ははっきりしているはずだが……」
 加賀は名雲を睨みつけた。名雲は微笑して加賀にくちづけた。加賀はジャケットの袖をつかんだが、指先に力が入らなかった。
 名雲は加賀を後ろから抱き締めながらソファに座った。
 壁一面ガラス張りの窓の向こうに暗闇が広がり、叩きつけるような雨が降り続いている。照明の反射でガラスが鏡のようになっている窓に、服を脱がされていく自分の姿が映っているのに気づいて、加賀は息を呑んだ。
「よく映っているな……。自分がどんな姿をしているか、ちゃんと見ていてくれよ」
 加賀の表情に一瞬動揺が走った。
 名雲に触れられているところが熱い。加賀は名雲に身体をもたれさせた。
「……眼を開けて」
 名雲に逆らうように、加賀はかたく眼を閉じた。
「痛っ!」
 ゆるやかに続けられていた愛撫に突然痛みを加えられ、加賀は思わず眼を開けた。
 ガラスには、名雲に抱き締められながら身体を震わせ、恥ずかしげもなく脚を開いている自分の姿が映っていた。羞恥に震える加賀が眼を逸らすのを見て、名雲はうっすらと微笑した。
 冷えた指先が突然押し込まれた。
「っ……」
 少しずつ穿たれ、かき回されていく感触に身体が震える。眼をつぶってこらえていると、違和感はすぐに消え去り、代わって甘い疼きが加賀を悩ませ始めた。
「あっ……」
 切なげに息をついて、加賀がのけぞった。名雲に促されると加賀は諦めたように眼を開けたが、ガラスに映った自分の姿が眼に入ると、あわてて眼を逸らした。頬を上気させた加賀を、名雲はじっと見つめていた。
「っ、う…」
指が絡められ、その羞恥もためらいも忘れさせるような快感に、加賀はびくんと震えた。名雲は先端の濡れてくる感触に指先を遊ばせながら、うなじにくちづけた。
 ……やがて、突然指が抜き去られ、押し込まれたものの圧迫感に、加賀は息の仕方を忘れた。しばらくするとゆっくり揺らされだしたが、痛みはそれ程感じなかった。それより、じわじわと広がる甘いしびれのような感覚と、眩暈に似た意識の混濁に加賀は狂わされていった。
「ん……、あ…っ」
 喘ぎ続ける加賀の熱い吐息を絡め取るように、名雲はくちびるを重ねた。薄く眼を開けた加賀は名雲から眼を逸らし、再び眼を閉じた。