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「っ……しょーがねーな、もう……」
あんまり笑うから、よっぽどすぐに着替えてやろうかと思ったけど、ヒイロが「しばらく着ておいてくれ」と熱心に頼むので、デュオはもう少しだけつきあうことにした。
「メイドは主人の命令には絶対服従だ」
「……あのな」
 デュオは腰に手を当てて、ヒイロを睨んだ。
「おまえな! 俺はおまえのためにわざわざこんな格好『し・て・やってる』んだ。本当のメイドでもないのにそんなの聞く耳ねえっての」
「……デュオ」
 ヒイロはソファから立ち上がると、デュオの両肩に手を置いた。
「な……なんだよっ。やる気か、コラ」
 口の悪いメイドだ、と内心苦笑しながら、ヒイロは表面的には真剣な厳しい表情でデュオを見据える。
「俺がなぜその服をおまえに着せたか分かってないのか?」
 デュオはさっぱり分からない。もちろん、ヒイロにだって、そんなしかめつらしい顔で言えるほどのもっともな理由などないのだけど。
「きっと、おまえになら似合うと思ったんだ。それに……」
「そ、それに?」
 似合うだろう、と思われていた時点でデュオはキレそうになっていたが、そこをぐっとこらえて、ヒイロを睨みつけた。
「メイド服は……萌えるからな」
「やっぱりそういう魂胆かよっ!」
 すぐ脱ぐ、速攻脱いでやる! と暴れ始めるデュオをヒイロは抱きすくめた。
「離せ! もう我慢できねえっ」
「そう言うな。……その格好でコーヒーを入れてくれないか」
 いいじゃないか。……楽しいんだから。……そう囁かれて、デュオは暴れるのをやめた。じっとヒイロを見上げる。少し恥ずかしそうに、頬を染めながら呟いてみる。
「ヒイロは……俺がこんな姿でコーヒー入れるだけで楽しいのか……?」
 少し真剣味の増したデュオの声に、ヒイロは穏やかに頷いた。
「ああ、もちろんだ」
 デュオの頬が微かに上気する。
「……ま……まあ、その……ヒイロがそう言うなら……してやらなくもないけど……」
 ヒイロが腕を緩めると、デュオはキッチンに向かった。ヒイロはメイド服やふりふりエプロンが揺れるのを楽しげに見送り、ソファに腰掛け直した。
「……はい、コーヒー」
 一応トレイに乗せ、ヒイロの目の前のテーブルに置こうとしたのを、ヒイロは直前で止めた。
「待て」
「な……っ、なんだよ」
 ヒイロはデュオの姿をしげしげ眺めつつ、言った。
「言葉遣いがなってない」
 あ、キレそう……と見て取ったヒイロは急いで付け足す。
「おまえがその格好をしてくれるだけでも楽しいが、……メイドの姿をしているのが単に外見だけだったら、それはあまり意味がないと思わないか?」
 つまり……ヒイロはデュオに本物のメイドのように振る舞って見せて欲しいらしい。色々注文が面倒だな……と思いつつ、デュオは仕方ないからつきあってやることにした。
「分かったよ。……えと……置くところからやり直せばいいのか? ……いや、いいんでしょうか、……かな」
「ああ」
 えーと、とか、うーん。とか、うなっているデュオが、キッチンに戻りながら首を傾げている。うっかり壁にぶつかりそうになって止まったデュオの様子に、ヒイロはもう少しで噴き出すところだった。
 デュオがもう一度やってきた。
「失礼します。コーヒーをお持ちしました」
 そう言ってから、ヒイロの前にコーヒーカップを置こうとして、再び物言いがついた。
「なんだよ、まだ文句があるのかよ」
 ヒイロはちらりとデュオを見つめる。やはりメイド服はよく似合っている。少しでも長い間着ているところを見ていたいが為にいちゃもんをつけていると知れたら、きっとデュオは暴れるだろうな……と思いながらヒイロは無表情を通している。
「様づけ」
「……は?」
 あくまで冷静に、静かに呟く。
「俺は今、おまえのご主人様だろう。だったら、それなりの呼び方があるんじゃないか?」
 ひくひく、とデュオのこめかみがひきつれる。
「そこまでやれってか」
「一度……一度おまえにメイドの格好をさせてみたかっ……」
「だーっもう!! 分かったよ、やるよやればいいんだろっ!」
 なんだかんだ言っても、ヒイロを喜ばせてやるために、デュオは本当によく譲歩していると思う。そんなデュオが愛らしいとも思うけど……本当にからかいがいのある奴だとも思う。今すぐ食べてしまいたいくらい、可愛い。
「……お待たせ致しました、……ヒイロ……様」
「ああ」
 デュオは表面上だけでもにこやかにコーヒーカップをテーブルに置いた。
「コーヒーをお持ち致しました」
 トレイを抱えたまま、デュオは心配げにヒイロを見つめている。ヒイロはデュオの前でコーヒーに口を付けた。
「……いかがでしょうか……えと……ヒイロ様」
 ヒイロはカップを受け皿に戻した。そしてそのままデュオを見る。デュオはじっと黙ったままヒイロを見つめていた。
 瞳は「どう? どうだった?」と言っていた。そんなデュオの姿に、ヒイロはくらくらした。
「……可愛い」
「へっ?」
 デュオの手からトレイが落ち、床を転がった。
「ヒイロっ!」
「……ヒイロ様、だろう」
 デュオは突然手をつかまれ、ソファに押し倒された。そのままくちびるを奪われて、息もできないほど激しく貪られた。
「ん……んっ、や、……あっ……ヒイロ……」
「……呼び方が……なってない、な」
 デュオは再びくちづけられ、ヒイロの腕の中で懸命にもがいたが逃れることは出来なかった。ようやくくちびるが離れると、透明な液が伝って、デュオは頬を染めた。
「……お仕置きが……必要なようだな」
 『お仕置き』という言葉にぎょっとして、デュオは息をのんだ。
「ヒイロ! あ、いや、えっと、……ヒイロ様、やめ……やめてくださ、い」
 油断するとスカートを捲り上げられそうになるデュオは、懸命に懇願した。
「や、やだっ……ヒイロ、やめ……!」
「様が抜けてる」
 デュオはびくっと震えた。胸元に服の上から指でなぞられ、デュオは切なげに喘いだ。
「ヒイロ……様……っ」
「そうだ……」
 デュオは下腹部に伸ばされるヒイロの手を払いながら懸命に起き上がろうとした。
「やめて……ください、ヒイロ……様っ」
 うーん、楽しい。楽しすぎる。従順なデュオも可愛いけど、やっぱりいつもの生意気なのがデュオらしくていい……などと、ヒイロが身勝手なことを考えているうちに、デュオはヒイロに首筋にキスマークを付けられて切なげに声を上げていた。
「ちゃんと……呼んでる……だろっ、……だから、もう……っ」
 言葉遣いがいつものに戻っているのに気づき、ヒイロの眉がぴくっと上がった。スカートの上からデュオ自身に触れる。その感覚にデュオの身体が震えた。
「おまえは今メイドだろう。やめて欲しいなら、ご主人様に『お願い』してみろ」
 デュオは涙目になってヒイロを睨んだ。
「さっきから、やめてって言ってるじゃねえか!!」
 見る見るうちにデュオの眼に涙がにじみ、頬を伝った。
「デュ、デュオ……!?」
 ぽろぽろこぼれる涙を、ヒイロはそっと拭った。
「デュオ、……どうした」
「……だって……ヒイロ、ひでえんだもの……。ちゃんと言われたとおりにしてるのに、……ヒイロ様って呼べって言うから呼んでるのに……っ」
「デュオ」
 ああもう。泣いていてもこんなに愛らしいのは何故なんだろう。ヒイロはハンカチでデュオの涙を拭ってやり、優しくくちづけた。
「ん……っ」
 今までと違う、優しいキスだった。
「泣くな」
 耳元でそっと囁かれて、デュオは薄く目を開けた。涙が睫毛を濡らして、震えながらヒイロを見上げている。
「そんなに俺に抱かれるのは、いやか?」
 デュオは首を振った。
「そんなわけ、ねえじゃん……」
 それなら、とヒイロがくちづけようとするのを必死に制して、デュオは呟いた。
「……こんな……変な格好のままはいやだ」
 こんな格好だからこそ、手を出したいのに。
 ヒイロはデュオの頬を撫でた。
「服装なんて、関係ないだろう」
「なら、ヒイロだって別に俺がメイド服着てるのにこだわるなよっ」
 ヒイロは紺のスカートの中からのぞく白いレースをまとわりつかせてデュオの細い脚が伸びているのを残念そうに見つめていた。
「仕方ない。今日は諦めるか」
 今日は、って何だよ! と暴れるデュオをもう一度抱きすくめ、ヒイロはデュオに軽くくちづけた。


いかがでしたでしょうか? あの笑い死んでるヒイロの設定で続き……と言われて、正直戸惑いました。一体あの後どんな展開になるやら……全然予想が付かないんだもの。
ちょっとでも楽しんで頂ければうれしいです。それではまた〜。

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